第7日目 7月14日(月)
内戦で破壊された家屋  5時半起床。身支度と荷詰めをし、廊下にスーツケースを出して朝食に行こうとしたのだが、意外と外が涼しいというか寒かったので慌ててスーツケースから上着を出した。

 7時半にホテル発。朝もやであたりは真っ白だったが、15分も走るとぱーっと日がさしてきた。
 ザグレブから南下する国道1号線を進む。このあたりは、山をひとつ越えればボスニア・ヘルツェゴビナである。そのせいだろうか、道路の両脇に広がる平原には、内戦時に破壊された家々がかなり目立つ。焼け焦げたレンガ造りの壁の一部だけが、生い茂る草に抱かれるように点在していた。
 2週間前に開通したばかりの高速道路を利用し、クロアチアで一番長い(5,681m)トンネルであるセント・ロクストンネルをくぐると、ダルマチア地方に入る。
 9時過ぎに、ザダールの手前で高速を下り、トイレストップ。ここのドライブインのカフェのオネーさんが超ご機嫌斜めで、非常に怖かった。お手洗いを借りるので、皆が何かしら飲み物を頼むのだが、睨むような顔をしながら無言で「どんっ!」と叩きつけるようにカウンターに飲み物を出すのだ。これは単に機嫌が悪かったのか、東洋人が嫌いだったのかその辺はわからないが・・・
複雑な海岸線
クルカ川  再びバスを走らせ、今度は10時半ごろシベニクの手前で休憩。クルカ川にかかる橋のたもとにドライブインがあるのだが、紺碧の川面は陽を受けてキラキラと光っていた。

 11時にクルカ川国立公園の入口にあたる小さな町スクラディンに到着。メインストリーを進んだところにあるホテルのレストランで、クルカ川のマスのグリルの昼食をいただく。おいしいのだが、切り身ではない魚をナイフとフォークで食べるのに慣れていないので、「箸が欲しいー」と最後まで思っていた。
 13時発のボートで上流まで向かう予定だったのだが、今日は3隻のボートのうち、1隻が運行されていないということで、ボート乗場は大行列になっていた。これでは次に乗り換えるボートに間に合いそうにないので、すでに上流の駐車場へと向かってしまったバスを急遽呼び戻すことになった。
 真っ青な空と、じりじりと照りつける太陽とセミの声。海辺の町の真夏の昼下がりの空気は、なんだかとてもまったりしていて、公園の桑の木の木陰で、なんだかこのまま昼寝をしたい気分になった。
スクラディン
スクラディンの滝  14時発の24人乗りのボートで、クルカ川の上流へと向かう。約40分のクルーズで、川に浮かぶ小島「ヴィソバッツ島」へ到着。
 この辺鄙な、そして美しい小島にはフランシスコ派の修道院があるのだ。ヴィソバッツ修道院の博物館で、1487年印刷のイソップ寓話集の初版本などを見学し、周囲を散策した後、15時のボートで下流へと戻る。
 気持ちよく船に揺られているうちに、ついつい眠りこけてしまった。ハッと目を醒まして周りを見たら、ほぼ全員がお昼寝タイムという状態になっていた。
 ボートから降り、さらに下流のスクラディンの滝を見学した。この滝は400mの長さ、最大幅100mの17の滝からなるダイナミックな風景が楽しめる。川自体が国立公園になっているのは非常に面白いと思った。
 16時15分にクルカを出発し、再びシベニクを通過して海岸ルートを走った。
 途中、クラパニ島(?)という海面すれすれ(海面からわずか6m)という島や、プリモシュテンという町などを通過。とにかく海岸線が複雑で、入江がたくさんあり、その海の色のグラデーションがなんとも美しい。今回の旅行では海水浴をするつもりは一切なかったので、水着を持ってこなかったのだが、こんなにもきれいな海を見続けているうちに「あー、水着を持ってくればよかったなー、ちょっとでも浸かってみたいなー」と後悔し始めていた。
プリモシュテン
アドリア海  海から反対側の山に目を向ければ、あちらこちらで山火事のあとが見受けられた。黒焦げの立ち枯れた木々が痛々しい。

 17時15分頃トロギールに到着した。旧市街にある聖ロヴロ(セント・ローレンス)カテドラルは世界遺産に指定されている。
 フリータイムが少々あったので、旧市街の迷路のような路地を散策した。
 私はこういう古い町の路地の風景が大好きなのだが、治安のよいところでないと、こう気軽に裏道など入り込めないので、なんだかとっても楽しい気分になる。
 18時半にトロギールを出発し、19時15分に今晩宿泊するスプリットのホテルに到着した。海に面したホテルなので、ぜひとも海側の部屋に泊まりたいと思っていたのだが、今回は全員が海側とのことで、非常に嬉しかった。バスタブのない部屋だが、割と新しい感じで、オパティヤのホテルより使い勝手がよかった。そして気づいたら、リュブリャーナ以来の冷房つきの部屋だった・・・。
トロギール
 夕食のレストランに向かうためにエレベーターに乗ったところ、先に乗っていた年配の男性が「日本の方ですか」と英語で聞いてきた。なんでもドイツからバカンスに来ているのだそうで、以前は日産の関連会社に勤めていたのだそうだ。
 レストラン前でそのご夫妻と別れ、他のツアー客を待っていたのだが、ふと金髪美人のオネーサンがキワドイ格好をしたポスターが目に入る。どうもこのホテルの別館にストリップ・ショーを見せる「American Go Go Club」があるらしい。「ふーん」とポスターの案内を凝視していたら、添乗員さんに笑われた。

 夕食を終え、部屋に戻ってベランダに出たら、水平線の際に大きなまんまるの月が真っ赤に輝いていた。それは息を呑むほどの光景で、「うわー」と思ったのだが、なにせ同行者がいないものだから、「見て見て!」「すごいね」と共感してくれる人が誰もいない。なんだか急に寂しい気分が襲ってきたので、「風呂にでも入るか」と思い、くるりと向きを変えたところ、2つほど奥の部屋だったIさんがベランダでタバコを吸っているのが見えた。手を振ったら向こうも私に気づいたので、月を指差しながら「すごいね」というジェスチャーをしたら、Iさんもうんうんと頷いて「すごいね」と返してくれたので、なんだかとても嬉しくなってしまった。
スプリットの月夜  それからシャワーを使ったのだが、どうもこの1日で日焼けしたらしく、腕がヒリヒリする。軽い日焼けの場合は保湿が肝心というので、ボディーションをたっぷりとすり込んだ。

 風呂上りに再びベランダに出ると、赤い月は中空にまで昇っていた。月明かりが真っ黒い海の上に、光の道をつくっていた。それはオパティヤで見た静かな印象の月とはまるで違い、皓々と光を放っていた。
 心地よい風に吹かれながら、「月ってこんなに明るいんだ・・・」としばらく時の経つのも忘れてベランダから月を見ていた。



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