第4日目 7月11日(金)
 6時にモーニング・コールなので、その5分前に目覚まし時計をセットしてあった。このホテルのモーニング・コールは今時珍しいナマ声(←?)なので、無言でガチャンと電話を切るわけにもいかず、せめて「グッド・モーニング、サンキュー」とでも応答せねばならないのだ。
ヴィラ・ブレッドの朝食  というのも、昨日、すっかりいつものように録音テープだと思い込んで、寝ぼけたまま受話器を取って無言でいたら、「ハローハロー」としつこく呼びかけられて、「うおっ、ナマ声!」と驚き慌ててしまったのだ。部屋数が少ないからこそ可能なサービスなのだろう。

 今日も晴天に恵まれ、朝日のあたるテラスでの朝食はとても気持ちがいい。小鳥がパン屑をねだってテーブルまでやってくる。今朝は朝っぱらから誰かが教会の鐘を引っ張っているらしく、澄んだ鐘の音が響いていた。焼きたてのクロワッサンがおいしくて、ついおかわりしてしまった。
 出発の10分ほど前にチェックアウトを済ませ、玄関を出たところ、仔猫が花壇の中を跳ね回っていた。あまりにも可愛らしいその姿に、カメラを持って追っかけまわしてしまった。
 仔猫と遊んでいると、ヨークシャテリアをつれた紳士が歩いてきて、車の前で使いこまれたルイ・ヴィトン(!)のケージを地面に置いた。そして、愛犬に向かって「ハウス!」とひと言声をかけると・・・何とわんこは自発的にケージに入ったのだった。まあ、しつけのゆきとどいていること!
ヴィラ・ブレッド(仔猫) ヴィラ・ブレッド(仔猫)
 7時45分にホテルを出発し、ポストイナ鍾乳洞までの約110キロをノンストップで走った。途中でダチョウの牧場を見かけたが、スロベニアとダチョウという組み合わせがなかなかミスマッチ。

 9時半にポストイナに到着。ここは時間決めでガイドの案内に従って見学するのだが、私たちは10時の回だった。300名くらいの人々がぞろぞろと入場し、まずはトロッコ乗場へと向かう。鍾乳洞の全長は27キロということだが、そのうち見学できるのはほんの一部分で、なおかつ往復各2キロほどはトロッコに乗って移動するのだ。

 鍾乳洞内は年間を通じて約8度ほどだとガイドブックで読んでいたので、私はババシャツ+半そでTシャツ+7分丈の薄手のジャケット+ウインドブレーカーという重ね着作戦で臨んだのだが、それでも意外とスピードの出るトロッコは風を切って走るので寒いの何の! 「今は夏ですから、そんなに寒くないですよ」という添乗員の言葉を信じて、薄着だったIさんは鳥肌をたてて寒がっていた。
 トロッコを降りた後は、スロベニア語、英語、ドイツ語、イタリア語・・・とガイドの言葉のグループごとに集合して約1.7キロを歩いて見学する。足元は濡れているが、手すりつきのコンクリートの遊歩道が整備されており、とても歩きやすい。鍾乳洞は本当に規模が大きなもので、その大きさにおどろき、またその自然の造形美に感嘆しつつ歩いた。
 が、途中で、一瞬停電してあたりは真っ暗に。漆黒の闇とはこういう状態なのか・・・なんてその時はそんな冷静なわけはなく、前も後ろも、そしてすぐそばにいるはずのIさんの姿さえ見えなくなって、正直なところパニクリそうになった。
 停電は一瞬のことだったが、光のありがたみをしみじみ感じながら見学を続け、最後にプロテクス・アニグィスという「類人魚」の水槽ものぞいた。これはこの鍾乳洞に棲む生物で、見た目は肌色のヤモリといったところ。なぜ名前に「類人」とつくのかは謎である。
 最後の見学ポイントは、1万人収容できるという「コンサート・ホール」。広い広い空間が広がっており、見学客は大声を出したり、手を叩いて反響を楽しんでいた。
 ここで見学は終了。またトロッコに乗って出口へと向かう。外に出たときの太陽の光とそのあたたかさに妙に感動した。
ポストイナ鍾乳洞
 昼食は出口の脇にあるレストランでとった。さすがに団体客が多い。食後に少しフリータイムをもらい、土産物店へ走った。今日はこれからクロアチアに入るので、スロベニアのお金はもう使えないのだ。両替するほどは残っていないので、お土産物で使い切ってしまおう、というわけである。お買物ごっこのようなもので、いかにきれいに残金を使い切るか・・・というのがなかなか難しい。絵はがきだの、鉛筆だのを組み合わせて、小額残ったトラールを使い切った。

 田園風景を楽しみながらドライブを続け、14時にはスロベニアを出国した。続いて、クロアチアに入国。スルーガイドのトムさんが入国管理官の女性に頼んでくれたので、パスポートにスタンプを押してもらえた。
 入国ゲートのすぐ脇で、トイレ休憩と両替。ドルはけっこうしつこくチェックされていたけど(偽札があるのかな)、日本円は信用があるのか、意外とスムーズだったクロアチアから見たら日本円なんてマイナーすぎて「ダメ」と言われるかとすら思っていたのだ。
リエカ  15時頃、クロアチア最大の港湾都市である「リエカ」へ到着した。郊外から中心部へと向かって走っていたのだが、薄汚れたコンクリートの高層アパートが並んでいる車窓の風景を見て、あまりにもきれい(すぎ)だったスロベニアとのギャップに「うーん」という印象を持った。

 バスを降り、簡単に町の説明をしてもらったあと、フリータイムをもらった。今朝まで涼しい山リゾートにいたのが、いきなり南下して海岸沿いの町にきたので、湿気っぽい暑さがこたえる。Iさんと郵便局へ切手を買いに行き、その後、マクドナルドでお茶をした。
 あまりの暑さに「アイスコーヒーが飲みたい! いくらなんでもマックなら大丈夫だよね」とIさんは果敢にアイスコーヒーにチャレンジしていたが、スロベニアの「アイスコーヒー」で懲りていた私はダイエット・コークに逃げた。
 この私の選択は正しかった。結局、マックでも「大丈夫」ではなかったのだ。店員が紙コップに入れたホットコーヒーの上にソフトクリームをねじねじ巻き始めた瞬間に、わたしとIさんは叫びそうになったのだった・・・ぎゃーやめてーと。
 どうもスロベニアとクロアチアには「冷たいコーヒー」は存在しないらしい・・・この1件で私たちは真に理解した(←?)。

 Iさんが何だか具合悪そうだったので、それとなく聞いたら、予定より早く生理が始まってしまったとのこと。「予定より早く」という言葉に耳ざとく反応する私。というのも、私は旅行前から始まっていたので、すぐに終わる予定ではあったが、何があるかわからないので大量に必需品を持ってきていたのだ。もう私には用済みとなったこの大量の必需品を捨ててしまうのももったいないし、持って歩くのも邪魔だし、と思っていたところだった。なので、「夜用から薄型までなんでも揃ってますよ、持ってても邪魔だからもらってください。あ、鎮痛剤もあるからいつでも言ってくださいと」と、これ幸いとばかりにIさんに押し付けようとする私なのであった。(結局、お礼にコーヒー一杯おごってもらうということで、話がまとまった)
 Iさん曰く、「悪いわね、買わなきゃ買わなきゃって思ってたの。え? 他の人には聞けないわよ、だってもうみんな終わっちゃってるでしょ」。そうなのだ、このツアーでは三十路の私と40代の彼女が一番の若者(?)だったのだ・・・。確かに60代のオバ様方に聞くだけ無駄であろう。
 マックで休憩したあと、目抜き通りの中心部にあるデパートをのぞいてみたが、社会主義時代からあるというそのデパートの店内は薄暗くて品薄という感じ。そこだけまだ時間に取り残されている印象だった。

 16時にリエカを発ち、今日明日の宿泊地であるオパティヤへ向かった。宿泊ホテルは、まあ普通のホテルである。そう普通なのだが・・・今朝まで「スロベニアでもっとも格式のあるホテル」にいたものだから、そのあまりの差に愕然とした。人間、あまり贅沢に慣れてしまっては幸せには暮らせない(←?)。
ホテル玄関前の黒猫さん
 その後、ほとんどのツアー客は添乗員の案内で町の散策へ出かけたが、私とあまり体調のよくないIさんは、そこらの散歩をしましょう、とふたりで海岸沿いの遊歩道を少し歩いた。ヴォロスコ(リエカ湾の端の村)からオパティヤを経て、ロヴランに至る約12KMの海岸遊歩道が整備されているのだ。
 この遊歩道の存在は、当時ロヴラン(オパティヤの隣町)に在住されていたピアニストの西井葉子さんに教えていただいた。旅行前にクロアチアに関する情報収集をしていた時に、偶然西井さんのサイトにたどり着き、掲示板にご挨拶を書き込んだ際に教えていただいたのだ。
 その時から、私は「よし、ほんの少しの距離でもいいから、絶対歩くぞ!」と思っていたので、せっかくのフリータイムは散策にあてることにしたのだ。せかせかとは歩き回りたくないけど、部屋にこもってるのももったいないと思っていたらしいIさんのニーズにも丁度合い、必需品を届けたついでに、そのままふたりで出かけた。
 海沿いの遊歩道は確かに気持ちよく、Iさんとあまりつっこんだプライベートな話はしないけれども、自分の話、旅行の話・・・適度な距離感が心地よかった。
月明かり(オパティヤ)  オパティヤは、ハプスブルク時代から歴史のあるクロアチア随一のリゾート地ということだが、コスタ・デル・ソルあたりの金持ちが集まる洗練されたリゾートとくらべると、もっと庶民的な感じがした。もちろん、マリーナにクルーザーがたくさん係留されているし、高級な部分は高級なんだけれど、全体的には家族連れで浮き輪持ってわいわい楽しむ感じで、町の雰囲気が楽しい。

 19時半にホテルのダイニングで夕食。参加客のお一人の誕生日だったので、添乗員さんの手配で、デザートは丸いデコレーションケーキ。それを皆で切り分けていただいた。

 食後に、海の見えるテラスでIさんにコーヒーをご馳走してもらった。テラスからはリエカ方面の夜景がきれいで、そして月明かりが海面でゆらゆらと揺れてとても幻想的だった。その海面に揺れる月光を写真に撮りたくて、デジカメとフィルムカメラをとっかえひっかえ撮ってみた。夜景の撮影はなかなか難しい。

 私の部屋のすぐ下に遊歩道が通っていたし、ホテル地下のレストランの音も響くので、夜半までざわざわとしていたが、楽しげな雰囲気が心地よく、あまりうるさいとは感じなかった。12時半就寝。



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