第2日目  11月30日(日) その2


 寂しい散歩
雲間の陽光

 島にひとつしかない信号を過ぎ、今度は集落の中を通ってコンクリートの護岸の方へ出てみた。
 たくさんの家があるのに、見事なまでに人気がない。風と荒々しい波音しかしない集落のなかを歩いていると、なんだか無性に寂しい。

 もっとおだやかな気候だったら、海のそばの公園やゲートボール場などで地元のオジイやオバア、そして子供たちに会えたのかな、と残念に思った。池間島ではさっきの橋詰広場の土産物店の人たちくらいしか見かけていないのだ。
 今度は灯台へ行ってみる
 そんなことを思いながら、集落をすぎると、ラサ・コスミカの特徴的な外観が目に入ってきた。ここで宿にもどってもよかったのだが、もう少し歩いてみることにした。島を一周する元気はないが、あとしばらく歩けば灯台があるので、そこを目指すことにした。

 先に紹介した本のなかに以下のようなくだりがある。
「小さな島であるにもかかわらず、人々は南西のわずかな場所に集落を作り、身をよせあうようにして住んでいる。北と東はサトウキビ畑が広がるばかりで家は一軒もない」
  松居 友 著「沖縄の宇宙像:池間島に日本のコスモロジーの原型を探る」(洋泉社、1999)

 この文章の通り、集落のはずれにあるラサ・コスミカを越えると、その先に人家はない。
 サトウキビ畑、自然そのままの緑の茂みが道路の両脇に延々と続いている。
 島には、島を一周する道路があるのだが、車の往来はほとんどなく、まして歩いている人など1人もいない。
 サトウキビが強風にあおられしなり、ざわざわとざわめくなか、心細い思いで歩き続けた。
 
ざわわ・・・
「・・・なぜ北や東に家を建てなかったのかがわかってくる。そこには、化け物が頻繁に現れる場所であり、時には神々が訪れる神聖な場所であったりもして、条件がよくとも人の住むべき場所ではないのである。」
  松居 友 著「沖縄の宇宙像:池間島に日本のコスモロジーの原型を探る」(洋泉社、1999)
 またもや引用になるが、前出の本にはこんなことも書かれている。
 つまり、人家がないのはこのような理由からであるようだ。
 そんな地元の人にとって特別な場所であるなら、一周道路が通っているからといって、そして知らなかったからといって、ヨソ者がずかずか歩き回っていいのかなあ・・・と、ふと不安になった。やっぱり世の中には足を踏み入れてはいけない領域というのは存在すると私は思うし、そういうことをあまりないがしろにしてはいけないと思うのだ。(例えば、ほら、神社の境内って空気が他所より清浄な感じがしたりするじゃないですか。まあ、世の中にはいろんな考え方の人がいると思うので、押し付けるつもりはありませんが・・・)

 風の強い曇り空の天候のせいもあって、余計にそんなことを感じたのだと思う。ざわざわ揺れる木々に拒まれているような、そんな気すらしてきたのだ。
 そんなことを考え出したので、自然と早足になる。
 そんな時、ふと気の抜けるようなカニの絵の看板が目に入った。このあたりは、このあたりはオカガニが産卵にやってくる場所なので、その注意喚起のための看板なのだろう。

 そのちょっと先の「イキヅー」という小さなビーチに下りて、海をながめたあと、灯台までは行ってみることにした。たどりついた灯台は、他に何があるわけではなく、展望台のように登れるようになっているわけでもないので、ほとんどタッチアンドゴー状態で今来た道を戻った。
カニに注意 池間島灯台

 宿でごろごろ
 ラサ・コスミカに戻ったのが12時半。約2時間半の散歩だった。
 昼食にすることにして、ジュースとかぼちゃてんぷら(サーターアンダギー)と、それから昨日買った渦巻きパンをテーブルの上に並べた。うーん甘いものばっかり・・・。ジュースが酸っぱいのが少しだけ救いだが、うずまきパンは予想通りの甘さ。疲れているときにはいいかもしれない。かぼちゃてんぷらは、油を吸っていてすごいことになっているけど、しっとり甘くておいしい。今まで、もっとぼそぼそしたものしか食べたことがなかったのだ。

 こんなおやつみたいな昼食を終えた後は、借りてきた本を読んだりしてのんびり過ごした。
 部屋でごろごろしているうちに、夕食の時間になり、ダイニングに下りた。この日の夕食は、豆腐ハンバーグ(?)に野菜のつけあわせ、サラダ、コーンスープ、玄米ご飯である。今日は追加で「天然葡萄酒」の白を追加オーダーした。さっぱりすっきりした飲みやすい味だった。

 食後、カウンターに置かれた宿帳(というか、宿泊客が感想を記したノート)をパラパラとめくってみた。なかには8日間も泊まった人もいるらしい。どの人もみな、「また来ます」と書いていた。そして、「満天の星空に感激しました」「夕焼けに感動しました」・・・という書き込みをみて、ちょっと悲しい気分になった。

 この旅行の目的は「休養」だったのだが、それは美しい景色や海を見たいという期待込みでのものだったのだ。しかし、このあいにくの天候で、ビーチでひなたぼっこも、グラスボートで海の中をのぞくこともできなかった。そして、この曇り空では、星空、日の出、夕焼けも全滅だったのだから。

 望みは明日の天気予報「曇り時々晴れ」の晴れの部分である。てるてるぼうずは作らなかったものの、心の中で「明日晴れますように」と祈るような気持ちで、22時半に就寝した。
ラサ・コスミカのダイニング
ダイニング
ルームランプ
部屋を照らす温かい光