British Hills 訪問記
その4

 真夜中のお茶を頂いた後、じゃあそろそろお開きにしましょうか・・・と各部屋に引き上げ、お風呂に入ることにした。私はKと同室で、先にお風呂を使わせてもらうことになった・・・のだが、バスタブの上にラミネート加工した注意書きが置かれているのに気づいた。
 
 「今ではほとんど見かけなくなった猫足バスで、優雅なひとときをお過ごし下さい。ただし、床には防水処理を施しておりませんので、充分ご注意下さい・・・」
猫足バス  猫足バスというのは、文字通り猫足(ねこあし)のついたバスタブである。これでは何のことだかわからない、という人は、写真をよーく見ていただきたい。作りつけではなく、床の上に後置きしたバスタブの足が猫のような形をしているのだ。これはヨーロッパのクラシックホテルなどでたまに見かけるバスタブで、場所によっては絨毯の床の上に優雅に設置されていたりする。昼間っから泡風呂にのーんびり浸かっている優雅な姿を思い浮かべていただくとよろしいかと・・・

 実際、私もイギリスの宿紹介のパンフレットや本などで猫足バスの写真を見るたび、「優雅だなあ〜、一回こんなかわいいバスルームの部屋に泊まってみたいなあ〜」などと思っていた。

  しかし、実際に実物を目の前にすると、「これは入るのが難しそうだ・・・」と唸ってしまったのだ。
 だって、防水処理を施していない床の上に、どんっとバスタブが置かれているだけで、シャワーカーテンすらないのだ。これは水を跳ね飛ばさないよう、かなり注意を要するのではないか、一体どうやって入ればいいんだろう・・・とバスタブを前にしばし熟考。

 ふと思い出したのが林望のエッセイ。この手のお風呂にいかにして上手に入るか、そして英国人はどのように入っているのか・・・といったような内容だった。このエッセイでは、英国人は「泡を洗い流さない」ので、泡風呂のなかに浸かったら、そのままバスローブを羽織っておしまい、なのだと書かれている。それでは耐えられない日本人は、結局、バスタブにちんまりと座り込んで、水をこぼさないようにそっとシャワーを使うしかなさそうである。これでは全然優雅じゃない!

 結局私は、まずお湯を張ってそれに浸かり、お湯を流してからちんまりとシャワーを使うことにしたのだった。まったくもって優雅じゃない! 次にKが風呂を使ったのだが、しばらくして「ギャーッ!」という叫び声がバスルームから聞こえてきたので、「・・・やっちまったか・・・」とひそかに思った私であった。案の定、床にお湯をこぼしてしまったので、バスタオルやらバスローブやらタオルを総動員して拭き取ったそうである。
ロックガーデン 延々と続く木立
 そんなこんなで、とても長い1日を終え、ベッドに入ったとたんに「おやすみなさい、ぐーぐーぐー」と眠りに落ち、あっという間に携帯電話のアラームで起こされた。
 朝食は8時から8時半までの間にメインダイニングで取るように指示されていたので、眠気まなこをこすりながらピーカン晴れの朝日をあびながらメインダイニングに向かい、ブッフェ形式のおいしい朝食を堪能した。

 チェックアウトは10時だったが、チェックアウトを先に済ませて車に荷物を積むと、カメラと手荷物を持って、ブリティッシュヒルズ内をさらに歩き回り、もういい加減にしろ、というくらい記念撮影(?)をし続けた。建物群の周囲は果てしもなく木立が続き、のんびり散歩しているだけでも気持ちよかったのだ。
 正午を回ると、大型バスが3台連なって到着した。中から紺のスーツを着た学生の大群がわらわらと降りてきた。バスの前面には「神田外語学院ご一行様」の文字が。
 ああ、これがこの施設のあるべき姿なんだわ、こうやって皆、この山奥で隔離されて英語の勉強をするのね・・・私たちは学生の大群を傍目に、観光客丸出しに写真を取りまくっていた。
 そしてこうも思った。・・・きっと、彼らは部屋であのマントを見つけて、皆が皆「ハリーポッターみたいだね!」と言いながら、マントを羽織って出歩くんだ・・・うーんホグワーツ!
駐車場を闊歩する野良セントバーナード
野良?セントバーナード
ティールーム  さすがに疲れたので、ちょっと休憩をしましょう・・・ということで、ティールームで軽食をいただくことにした。
 これもまた、イギリスの田舎のティールーム風な造りで、供されるものもアフタヌーンティセットや、スコーン、キッシュといった軽食類。私たちは全員キッシュとスコーンのセットをたのんだのだが、キッシュがとてもおいしかった。
 ティールームでゆっくり休憩して、最後の最後までブリティッシュヒルズを堪能しつくし、3時も回ったころ、ようやく帰途についた。門を通り過ぎ、敷地の外に出るまでにまた延々と車は走り、峠を越え、森を抜け、鯉のぼりの大群と桜吹雪に見送られながら福島を後にした。

 ブリティッシュヒルズ・・・日本の山奥に、まるでひっそりと「隠れ里」のように存在する「パスポートのいらない英国」。設備と環境に関しては予想以上の素晴らしさだった。・・・しかし、今回のメンバー以外(たとえば1人旅)で訪問したとしたら、きっと寂しくてそんなには楽しめなかったような気がする。・・・ということで、このメンバーで「第2回ブリティッシュヒルズ訪問ツアー」、現在検討中である。
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