Continental
コンチネンタル

(イタリア・トレヴィソ)



 1996年9月のイタリア旅行。
 出発前から何かとゴタついたツアーだったので、一週間前に届けられた旅程表のホテルリストの注意書きを見た時も、やっぱりね、という感じだった。
 パンフレットでは、ベニス本島内に2連泊となっていたのだが、
「ベニス本島内のホテルがすべて満室のため、第3日目は近郊のトレヴィソ、第4日目はリド島にてご宿泊いただきます」
と変更されていたのだ。
 移動にかかる時間ももったいないよな〜、夜のベニスの雰囲気も味わいたかったよな〜、と残念に思っても仕方がない。
 それに、本島でホテルを取れなかったため、旅行社側は第4日目のホテルのランクを上げていたのである。
 それも、リド島の「デ・バン」。確か、映画「ベニスに死す」の舞台となったホテルではなかったか?
 かなり期待しつつ、私はイタリアへ飛んだ。

 で、ベニス初日、ゴンドラ遊覧と夕食を済ませた後、郊外のトレヴィソにある「コンチネンタル」というホテルに向かった。
 ここは、典型的なヨーロピアンタイプのホテルであった。部屋の大きさもまちまち、そこそこ雰囲気はあるが、設備面ではちょっと物足りない・・・というアレである。
「皆さんのお部屋はバスタブつきのお部屋になっているはずですが、もしなかった場合は、明日私に言ってください。お詫びに、食事の際の飲み物をご馳走させていただきます」

 そんなことを言う添乗員からルームキーを受け取り、部屋のドアを開けた瞬間、私と友達は絶句した。
「・・・鏡の間っ!?」
 そこは長細い部屋で、一方の壁に沿って、ベッドが縦一列に並んでいる。(お互い同方向に向いて寝るので、頭の上にもう一人の足があるってわけ・・・)
 そして。そのベッド際の壁も、その反対側の壁も全面鏡張り!
 ベッドサイドのテーブルも鏡張り。
 続きの間(写真右、参照)というか何というか、長細ーい部屋のさらに続きに、物置みたいな暗い続き部屋があって、そこにも鏡とベッドが・・・
「・・・なんか、ちょっとここの部屋・・・ブキミだよね・・・」
 あるだけの照明をつけて、部屋を明るくするものの、なんだか鏡効果で変な感じである。

 これは早く風呂に入って寝るべし・・・とバスルームの扉をあけると・・・案の定、バスタブはなかった。
「・・・これって・・・」
 またもや、私と友達は絶句した。
 便座の横に、洗濯機置き場としか思えないような枠(周囲が5cmほどは高くなっている)があり、試着室としか思えないようなシャワーカーテンが四方を取巻いているのだった。
「・・・これ、水を外に跳ね飛ばさないで入れる自信ある?」
「ない」
 即座に答えた友達の目は、本当に三角に釣り上がっていた。

 結局、お湯の量を抑えて、最大限の注意を払ってシャワーを使い、どうにもこうにも枠からこぼれてしまったお湯はあるだけのタオルでふき取り、とにかく疲れ果てた私たちは、電気をつけたままベッドにもぐりこんだ。(天井が鏡張りでなかったことだけが救いだった・・・)
「明日はデ・バンだよ」
「そうだよ、私たちにはデ・バンがある!」
 合言葉のように呟きあいながら、眠りについた私たちだった・・・


コンチネンタル(トレヴィソ) コンチネンタル(トレヴィソ)